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颱風が来た日

颱風15号は、山梨方面から首都圏を直撃するコースを取っていた。

午後4時ごろ、それまでも十分強風だった風が、それまでとは比べ物にならないくらいほど強くなった。
大粒の雨は真横から叩きつけ、あるいは下から吹きつけるように降っている。
この中では傘はもう無意味だろう。それ以前に、この暴風では、まともにさすことさえままならないが。

久しぶりに颱風らしい颱風だった。その上、持続時間はおそらく今までに経験したことが無いくらいだろう。
テレビのニュースで見る、沖縄あたりに颱風が来たという映像そのものの光景が窓の外に広がっていた。
道路の並木は風に引きちぎられそうになりながら、必死に耐えている。
文字通り根こそぎすべてを奪おうとする風に、何本かは抗いきれないだろう。

オンボロ建物の窓ガラスは、間違いなくたわんでいた。
もし今、子どものおもちゃ程度の小さな何かが飛んできてぶつかれば、それは間違いなく凶器となって我々を襲うだろう。

風に弱い京葉線と東西線が運休する。
それから順に、運休する線区が増えてくる。
帰る頃、電車は果たして動いているのか?
幸い、住んでいる地域の私鉄は比較的雨風に強い。
問題は、その線に接続するまでのJR幹線だ。

定時の1時間前、課長代理が事業所長の言葉を伝える。
「颱風でこんな状況だから、帰れる人は帰っていい」
外はすでに、出た瞬間にずぶぬれになる状況ですが。
それに、ここにいる中の半数以上はすでに電車が止まって帰れませんが。
今その判断って、何の責任逃れですか?
さらに課長代理が言葉を続けた。
「ただし、帰るのは自己責任で」

前の道路には、JR幹線の駅間を結ぶバスが通っている。
普段は駅まで歩くので乗ったことはない。
もしタイミングよくそのバスに乗れれば、いくらずぶぬれとはいえ、多少は被害が少なくて済むかもしれない。
かろうじて持ちこたえているそのJR幹線が停まる前に乗れれば、家まで帰れる(私鉄は慮外)。
その幹線が停まるのも時間の問題なんだから。
そんな計算をして、帰る決断をしたのは定時30分前。

バッグを掴んで、「帰ります」と宣言。
席を立ったその時、携帯にメールが届いた。
Yahoo!運行情報メールだった。
それは、完全に信じていた私鉄が全線停まったと告げていた。
続いてJR幹線の運休のメールも届いた。
詰んだ。

それから1時間15分。
暴風と豪雨は突然止んだ。
東京アメッシュも、もう降っていないことを示していた。

しかし、鉄道は回復しない。
風が止み、線路の点検で異常が無い限り動かない。
まだ数時間かかるだろう。

外に出られるようになったんだから、鉄道の復旧なんか待ちたくない。
JR幹線の駅から、私鉄の駅まで結ぶバスに乗れば、私鉄が復旧してなくても5kmほど歩けば帰宅できるはず。
迷うことはない。

帰れない人たちにいとまを告げて、幹線の駅まで歩き始める。
バスターミナルは、思ったほど人があふれていない。
20分ほど待って、バスに乗った。

バスの車内では鉄道の運行情報を調べ続けた。
鉄道はやはり動かない。
途中の、家から一番近いであろう停留所でバスから降りた。

そこからは都立公園を突っ切るのが一番近い。
真っ暗な公園に入ったとたん、颱風の猛威を思い知らされた。
携帯のライトで太い枝が散乱している足元を照らしながら歩いていると、目の前に倒木が現れた。
それを迂回してさらに進む。
公園を突っ切って少し先のコンビニに、家族に車で迎えに来てもらった。歩く距離が3km減った。

家に着いたころ、ようやく鉄道が動き出した。
by s-kei | 2011-09-22 23:06 | 雑談